望遠レンズやBORGなど長焦点光学系を使った撮影に限った場合の話ですが、バックラッシュという現象が撮影の歩留まりに影響を及ぼしてきます。
(広角レンズや標準レンズでは全く気にしなくて大丈夫、望遠レンズ撮影時だけの事だと思っていただいて構いません!)
天体撮影のベテランのみなさんには釈迦に説法ではありますが、搭載機材のバランスを完璧にとってしまうと、不思議なことに追尾精度が落ちてしまう場合があるんです。
基本的に、ギアを組み合わせた構造を持つどの赤道儀でも、ギアとギアの噛み合わせ部に必ず僅かな隙間が存在します。これは意図的に設けられた隙間で、「バックラッシュ」といいます。この隙間がないと、赤道儀は動きません。
で、このバックラッシュ、ある条件下になると、撮影時の歩止まりに影響を及ぼすことがあります。
前回のBlogでご紹介した「パンベース・クランプユニットとジンバルフォーク雲台の組み合わせによるクランプフリーシステム」を例に解説していきましょう。
東西方向のバランスを完全にとってしまうと、ギア同士のかみ合わせ部にできる、ほんの僅かな隙間の中で、ギアとギアがどこにも触れていない、いわば宙ぶらりんに浮いた状態になってしまうことがあります。
片方のギアでもう片方のギアを押すことにとってモーターで発生した回転運動を極軸まで伝えていくわけですから、ギア同士が宙ぶらりんの状態では、モーターを回してもギア同士が接触するまでの間、僅かなタイムラグが生じることになります。
つまり、このタイムラグの間は、厳密に言うと追尾していない状態。このまま撮影を続行すると、星が僅かに流れて写ってしまうことがあるのです。
「極軸を完璧に合わせたのに、望遠レンズでの撮影で、追尾がうまくいく時と行かない時があるんだよなぁ」という方は、もしかしたらバックラッシュの影響を受けているかもしれません。
粘性の非常に高いグリスを塗布することによってバックラッシュを目立たなくさせている製品も多くありますが、基本的には、どの赤道儀でもバックラッシュは存在します。
でも、ちょっとしたひと手間で、バックラッシュの影響を解消し、撮影時の歩留まりを向上させることができます。
まず、望遠レンズを使った撮影において、カメラの構図を決める操作によってギア同士が宙ぶらりんの状態になっていたとします。直ぐにこの状態でシャッターを切らず、1分程度そのままの放置します。すると、ギアが動いて隙間が無くなり、ギア同士でしっかり運動を伝え始めます。それからシャッターを押すという、ひと手間を加えるだけで、バックラッシュによる歩留まりへの影響を解消することができます(取扱説明書 P17参照)。
しかし、追尾撮影している最中にも、少しずつ機材のバランス状態は変化して行きますから、運悪く、撮影中にギアの“アソビ“の真ん中でバランスがピッタリと合ってしまうと、これまた追尾撮影の歩留まりに影響してきます。
そこで、搭載機材の東西のバランスを、ほんの僅かだけ、”東側”に過重が来るようにわざとバランスを崩して調整してあげます。ギア同士が宙ぶらりんの状態になるのを防ぐ為の工夫です。こうすることで、バックラッシュの影響を最小限にし、TOAST-Proの持つ追尾性能を存分に享受することができる、というわけです。
望遠鏡での撮影に慣れた天体写真ファンの間では一般的なノウハウですが、モバイル赤道儀での追尾撮影でも同じなんですね。
以上、今日の豆知識でした!