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モバイル赤道儀 HOMETOAST Style 佐藤俊彦さん

TOAST Style

Vol.11佐藤俊彦さん

5. TOASTスタイルの発展

≪3からの続き)

d. 南天への憧憬と彗星

2年間、四季の様々な天体と逢瀬を重ねるうち、南の方角にとりわけ心を惹かれる対象が多いことに気づきました。それはオメガ星団であったり、ガム星雲であったり。幸いよく行く村上市の撮影スポットでは南の低空を見渡すことができるので、昨年オメガ星団を撮りに行ってきました。

レポート冒頭の写真は、そのとき写したもの。大雪の年で、まだ駐車場は1m近い雪に覆われていました。除雪の済んだ道路からそこまで15mほど機材を運ばなければならなかったのですが、モバイル赤道儀TOASTなら許容範囲。
おそらくその年ベストと思われる透明度に恵まれたせいもあり、かなりの解像度で写すことができました。

「県北からのオメガ星団」
EOS40D改 + EF200mm F2.8L (TOAST 使用)
ISO640, F3.2, 4分

翌年にはさらに難易度の高いガム星雲にトライ。今年は県内では妙高の林道から写した人がいるだけのカノープスにトライしたりと、すっかり南天づいています。

また、県内のベテランの方には彗星ファンも多く、その人たちの影響を受けて、これはという彗星が見頃になると撮ったりもしています。

「ハートレー彗星とペルセウス座の二重星団」
EOS60D改 + EF300mm F4.0L IS II (TOAST-Pro使用)
ISO1000, F4.0, 4分

e. 画像処理の工夫

私は写真畑の人間なので、科学写真のように客観性を追求するより、主観をいかにかぶせるか、星から受け取ったものをいかに映像として表現するかに重点を置きます。
とはいえ最初の頃はステライメージで一から学びましたが、1年後にはPhotoshopやキャノン純正ソフトのDPPに移行しました(コンポジットの時だけは、今でもステラを使っていますが)。
ステラには色空間やカラーマネジメントという概念がないのが、私から見ると最大の欠点です。
ダークやフラット補正は一切行いません。RAW現像を前述のソフトのエンジンで行いたいというのが最大の理由。それに、キャノンやシグマの主要レンズはPhotoshop CS5に補正データが用意されていますし、キャノン純正レンズはもちろんDPPで各種補正が行えます。
これらのソフトで補正を行った方が下手にマニュアルでダーク減算やフラット補正をするより、結果的にいい絵が得られるというのが私の結論なのです(カメラレンズでの撮影の場合)。

Photoshopを使う利点のひとつに、膨大なサードパーティー製のプラグインが用意されていることがあります。
天体用アクションツールは有名なので、使っている人も多いかと思いますが、それ以外にもたくさんスグレもののソフトがあります。

数年前、はじめてマウイ島へ行ったとき、ラハイナのアートギャラリーを片っ端から訪れ、カルチャーショックを受けました。
写真とCGの融合を自由自在に行い、イメージを自由に飛翔させる、そんな素晴らしい作品にたくさん出会いました。

日本人は規定の枠組みを大切にし、そういった約束事の中で微細な感覚を追求するのをよしとする傾向がありますが、もっとのびのびとイメージを追求してもいいのではないでしょうか。

みなさんは星空から何を感じますか?
私は現地へ行くと、撮影の傍ら必ず瞑想をしたり、双眼鏡で星空散歩を楽しみます。こちらの方が実はメインの楽しみだったりします。
そこでハートが感じたことを想起しながら、画像処理を行っています。

私の好きな画家に井上直久さんがいるのですが、氏の描くイバラードの世界は、私のハートの空間に実在しています。いつしか地球がイバラードの世界のように、喜びと祝福を帯びた7色の光で満たされることを夢見ながら、今日も次の撮影行に思いを馳せています。

「銀河と入道雲の対話」(合成)

6. 今後の抱負とTOASTに望むこと

この3年間は質より量追求で、ひたすらより多くの対象を撮ることに熱意を傾けてきました。
取りあえずは200~300mmで狙える対象は一通り撮り終えたので、今後は質を追求していきたいです。となってくると露出時間をもう少し伸ばすかコンポジット枚数を増やすかせねばならず、ノータッチガイドの壁に本当の意味での挑戦が始まります。

TOAST TECHNOLOGYさんでは初代モバイル赤道儀TOASTをベースとし、耐荷重を大幅に増やしたTOAST-HDを開発中と聞きますが、1日も早い製品化を望むものであります。
耐荷重4kgでは、重さ1.5kgの望遠ズーム(70-200mm F2.8)を扱うのがやっと。私の野望としてはサンニッパを導入してみたいというのがあり、そうなると普通の赤道儀に乗り換える必要が出てきます、現段階では。ただ、市販の、PCいらずを謳い文句にするオートガイダーは、まだ完璧な商品はないのが現状。TOAST TECHNOLOGYさんも想定している基準をクリアするオートガイダーが出てくるのを待っているのかな、と勘ぐったりもしますが。

次に、2008年にポータブル赤道儀デビューを果たして以来、最も苦労したのが足回りでした。
他社のポータブル赤道儀を含む小型赤道儀は、基本的にオールインワン、すなわち専用の三脚や微動架台がワンセットになっており、何も買い足すものはありません。
その点TOASTは自分で市販の製品を組み合わせてシステムを構築しなければならず、そこが初心者にとっては高い壁となっていることを再認識してほしいと思います。
専用の各種パーツを取りそろえて欲しいのはもちろんですが、最低限なんらかのガイドラインというか、メーカー推奨の組み合わせ、例えば32mm径のカーボン三脚にTOAST Proを組み合わせる場合、微動架台はどのような製品があるのか(今はDish35がありますが)、自由雲台はどのようなものがいいのか、これとこれの組み合わせだと300mmを何分ノータッチガイドできる等の情報を与えて欲しいなと思います。
Enjoy! TOASTのK’s Reportなどはそれにあたると思いますが、もっと内容を充実させて欲しいなと。ベテランの方にはあれで意図するところが伝わると思いますが、初心者にとってはさらに懇切丁寧な解説が必要です。

デジタル一眼レフカメラのユーザーは、ミラーレス機のユーザーも含めると増加の一途をたどっており、潜在的な需要は工夫次第でいかようにも掘り起こすことができるのではないでしょうか。
それにはまず、ボーグさんの成功事例に見られるよう、専用のパーツを増やすことが必要。天体ファンの底辺を拡充していくさらなるポテンシャルを、TOASTシリーズは秘めているのです。

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